コラム
2020.11.24

上善は水の如し

 「縄文時代とメンタルヘルスを組み合わせて何かできんかな。」そんな感じで法人の企画会議は進められる。ワクワクが基準だと、奇抜すぎてボツになるものも多いが、モチベーションは高く維持される。

 仕事と生活の境目が曖昧な今の暮らしは、主体的に仕事に向かえたり、家族の存在をそばに感じながら働けたりとメリットは多いように思う。しかし放っておくと休息を取り損ねたり、家族と“向き合う”時間が意外になかったりしがちなのがこのスタイルの課題でもある。働き、生活している人の数だけ課題はあり、解決法も同じだけある。ここでは私のやり方、考え方について書いてみる。

 人として生きる上で、避けられないのがストレス。皆さんにどのように見えているかわからないが、私もご多分に漏れずストレスにまみれて生きている。仕事、家事、育児、自分に対してなど、思わず具体的に愚痴ってしまいそうだが自粛する。

 なぜ鍵は視界から消えるのか、なぜ靴下は脱いだまま床にあるのか、なぜインクは苦労して塗った漆喰壁に付いているのか、わからないが笑って生きている。いやホントはもっといろいろある。(←自粛失敗)

 身近な割にぼんやりした存在のストレス。臨床心理士で公認心理師の夫によると、脳がアクセルを踏み続けて考え続けると、筋肉と同じように脳も疲労する。これがストレスなのだそう。

 人がストレスにさらされると副腎皮質という場所からコルチゾールといういわゆる“ストレスホルモン”が分泌。これが免疫系、中枢神経系、代謝系などに影響を与えることで体に血圧上昇や消化機能低下、視野狭窄など様々な症状を起こし、また脳では神経伝達物質の流れに異常が起きてうつや不眠が引き起こされるという。これだけでストレスを見て見ぬふりはできないことがわかる。

 これを頭に置いた上で、どう対処するか。答えはやはり“休息”だった。脳を休ませることがストレスへの適切な対処だという。例えば具体的にはある悩みについてグルグル考えを巡らせ続けている事に気づき、その思考をそっと横に置いて呼吸や音、温度など、「今、ここ」にだけ集中する。評価や判断を加えずその感覚を味わって、手放す。ご存知の方も多いかもしれないが、これはマインドフルネスと呼ばれるメンタルケアの技法で、うつ病の防止や痛みの管理、ストレスの改善にも有効であるとの報告も多く科学的に研究が進んでいる。

 私は見て見ぬふりでも精神論でもスピリチュアルなアプローチでもなく、科学的な視点でストレスを捉え、それに対処する方法の一つとしてマインドフルネスを実践している。イライラしたときに呼吸に意識を向けると心拍数が下がるのがよくわかる。

 夫がメンタルケアに詳しいのはラッキーだったが、もちろんそれに加えて家族や友人とのコミュニケーションやスキンシップなど、私をストレスから救ってくれる要素はあちこちにあり、それに気づいて感謝することもとても大切なように思っている。

 鍵が時々なくなる。それはすぐにどこかに置き忘れる自分がいるからだ。置き忘れを減らすための対策はする。むしろ気をつけている私は頑張っている。必要以上に自分を責めないようにもしている。だって気をつけていても忘れるし、たくさん責めてもストレスを生む他にいいことがない。(←無責任と紙一重。でも重要。)

 夫の法人に所属したことで、仕事で夫と一緒の時間が増えた。それは同時に家族の時間に仕事が入ってくることでもあり、そうなると息子との過ごし方を考える必要がある。

 3歳の息子は平日の昼間は保育園に行っているが、夫婦で参加する会議や法人企画のイベントなどがそれ以外の時間の時は、息子も一緒に連れていくことが多い。多くの場面で受け入れていただけるので、非常にありがたく思っている。つい先日も夫の講演に同行したが、最終的にプロジェクターを顔で塞いだところで息子を摘み出した。それでもにこやかに対応してくれた皆さんに甘えつつ感謝した。

 息子には保育園というコミュニティがありお友達もそこにいるが、彼にとって保育園や学校の外にも居場所を持つことが大切だと思っている。そして世の中にはいろんな人がいるという事を、教えられるのではなく自然に吸収して欲しい。そういう意味で、今の“家族で仕事”のスタイルは息子にいい影響を与えてくれると思っている。

 時々夜遅くなってしまったり遊ぶ時間が取れなくて不機嫌にさせてしまうこともたまにあるが、完璧な育児などなく、我が家のやり方でその時のベストな過ごし方を、失敗したり喧嘩したりしながら模索していきたい。

 もう一つ大切にしているのが、息子を“何も知らない子ども”ではなく“一人の尊重されるべき人“として見ること。「説明してもわからないだろうから」と省かずに、物事の背景や理由は時間をかけて話すようにしている。発見だったのは、彼は私たちが思っていたよりいろんな事を理解していて、イヤイヤ期でもちゃんと説明すれば納得してくれることも多いということだった。意外と本質を見ていたりするので侮れない。

 どんな形にでもなれる柔らかさがあるのに岩すら削ってしまう力強さもある水。息子の名前にはそんな意味を込めた。多様な生き方に触れることで、そして失敗してもそこから学び、ワクワクを基準に仕事し生活する両親を見て、柔軟でしなやかな生き方を身につけてくれれば嬉しい。どんな形であれ彼らしく、何があろうと幸せを追求していけるパワーを持って生きていく土台を作るには、やはり私たち親自身が仕事や生活をひっくるめたすべての時間を“おもろく”生きることが一番なのだと信じている。

ライター
奈羅尾 玲子
奈羅尾 玲子

鳥取県若桜町出身。特殊メイク・特殊造形を学ぶため高校卒業後に渡米。The Art Institute of Pittsburghで学士号を取得後、ピッツバーグを拠点に映画、舞台、ハロウィンなどの現場で経験を積む。帰国後、日本海テレビの情報番組「スパイス!!」でリポーターとして起用されたのをきっかけにタレントのキャリアをスタート。

現在はメインMCを務める「スパイス!!」をはじめ、CMや各種動画、イベントなどに出演しつつ、日英バイリンガルナレーターとして国内外に声を届けている。今年はアメリカのVoice Arts Awards 2023にノミネートされるなど活動の場をローカルにもグローバルにも広げている。

2014年に結婚、2017年と2020年に男の子を出産。目下の興味は、民俗学、文化人類学、縄文時代などを通してみる人間の普遍的な思考や信仰。畑は4年目。最新のDIYは二人目をお腹に抱えて作った自宅録音ブース。

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