コラム
2019.11.08

矢印はあっち向きで⇨

 私も夫も物忘れが多い。“帰ってきたらここに置く“という場所を決めてあるのに、月に数回は二人で失くした鍵を探している。相手が失くすと「またかよ!?」と怒ってしまいそうな頻度だけど、我が家では「無いよね〜。忘れるよね〜。」

 欠点は補い合えていないけれど、とりあえず共感だけは生まれている。

 ワークライフバランスにおいて、そんな我が家のいま一番の課題は息子の激しいイヤイヤだ。もうすぐ3歳になる彼。炊飯器の「ピーッピーッ炊き上がりました」というお知らせにキレたり、部屋の明かりを昼光色から昼白色に変えたことに激怒したりする。地雷がどこにあるのかさっぱりわからない。泣くわめくだけで済めばいいが、ご飯やミニカーを投げつけてきたり、一応商売道具でもある顔を引っ掻いてきたり、蹴ったり、壁に頭をぶつけに行ったり、思いつく限りの反抗をしてくる。まったく可愛くて憎たらしくてたまらない。

 このイヤイヤが自我の形成には大切なものだとはわかっていても、時々こちらも絶叫したくなるほどストレスを感じることがある。そんなときも、「はぁ、大変だね。」と夫と分かち合っている。これはひとりで子育てに疲れている妻への同情ではない。大変さを共有している様子である。子どもの気持ちを受け止め、言葉にしてやり、危なくなければなるべくやりたいことをやらせてあげる…

 わかっていても余裕がなくなってそれができなくなった時、一人で自分を責めるより夫としんどさをシェアできることは、大きい。

 揃って仕事の時間や場所が不規則な私たち夫婦。家で仕事をする時間も多いので仕事と私生活は時間でパキッと分けることが難しい。家事や育児もいつどっちが担うのかがその都度変わる。

 私たちはチーム。結婚する前からそれをキーワードとしてきた。信頼で結びついたチームとして、喧嘩をしてもベクトルはお互いではなく同じ方向、家族の幸せに向かうことを意識している。

 夫はできる時には皿洗い、洗濯、ゴミだし、料理までするし、忙しい中でも息子と遊んだりお世話したりも普通にする人だ。(敢えて「してくれる」とは言わないでおく。)手伝ってくれることではなくそれが当たり前と認識してくれていることに感謝している。

 ワークライフバランスが注目され、家事育児の分担の話がよく話題に上がるが、互いに補いきれない弱点も持つ私たち夫婦で一番大切にしているのはおそらく“気持ちのシェア”。

 時間や労力を割く家事育児の分担は、その先に自然に生まれている気がする。

(後篇へつづく)

ライター
奈羅尾 玲子
奈羅尾 玲子

鳥取県若桜町出身。特殊メイク・特殊造形を学ぶため高校卒業後に渡米。The Art Institute of Pittsburghで学士号を取得後、ピッツバーグを拠点に映画、舞台、ハロウィンなどの現場で経験を積む。帰国後、日本海テレビの情報番組「スパイス!!」でリポーターとして起用されたのをきっかけにタレントのキャリアをスタート。

現在はメインMCを務める「スパイス!!」をはじめ、CMや各種動画、イベントなどに出演しつつ、日英バイリンガルナレーターとして国内外に声を届けている。今年はアメリカのVoice Arts Awards 2023にノミネートされるなど活動の場をローカルにもグローバルにも広げている。

2014年に結婚、2017年と2020年に男の子を出産。目下の興味は、民俗学、文化人類学、縄文時代などを通してみる人間の普遍的な思考や信仰。畑は4年目。最新のDIYは二人目をお腹に抱えて作った自宅録音ブース。

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